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[本] おしらせ [本]
[1] このブログはルピナスの書く小説を押し込めたブログです。主に短編で、時に二次小説を含むかもしれません
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[4] シェルティーとヒナの青い空 は、すずなちゃんの書くエル・ティリアとは別物になります。内容や世界観は繋がっておりません。管理人独自の勝手な妄想ですwあしからず。
byルピナス
*次回第6話は、6/15up予定です

2話 名前はヒナ [シェルティーとヒナの青い空]

 天色(あまいろ)に真っ白い雲が浮かんで、いつもと同じ空なのに、見上げた俺は妙に感慨を覚えた。
 怪我をしてから、治るまで家に閉じこもっていたせいかもしれない。
「シェルティー……その頭の上のものは何ですか?」
 突然の声に振り返ると、そこにいたのは青銀の髪をしたエルフの少女エルシィだった。
「……あ? ああ、そうだった」
 エルシィの視線は俺の頭上へと向けられていた。 
 そういえば、頭の上に雛を乗せていたんだった。
「この間、森で散策してる時に拾ったんだ」
「シェルティが!?」
「どういう意味だよ」
「何でまた……?」
無謀なことを、と言いたそうな顔していた。
説明すると長くなりそうだったので、巣から落ちたらしいことだけを掻い摘んで説明する。
「それで、頭の上で飼ってるんですか?」
「違うよっ。今から、こいつのエサを買いに行くんだよ」
「あら、エサですか? 偉いですね。どちらまで?」
「ん? えっと、多分、雑貨屋でいいだろ?」
 街へ行く事は決めていたが、具体的には何も考えてはいない。行ってから決めようと思っていたから。
「随分と曖昧なのですね。買う物がちゃんと分かっているのですか?」
「分かってるよ。食べ物だ」
「いえ、そういうことではなくて。その子は、何ていう種類の鳥なのです?」
 鳥の種類など分かるわけないだろ。親鳥は、灰色の羽をしていたけど。
「知らない」
「知らない!? 種類も分からないのにエサを買いに行くのですか? 鳥を育てた経験があるのですか? シェルティ?」
 なんか、面倒なヤツに会ってしまった気がする。
「……ないよ」
 エルシィは案の定、眉間に皺を寄せた。
「何て無責任なことを言っているのですか? 幼い頃の餌というのは成長には欠かせない大切なものなのですよ。体の基礎を作るものなのですから。まずは、その子の育て方を調べるべきではないのですか?」
「そんなこと言ったって、わからねぇし。それに、いつまでも飼っておくつもりもねぇし」
 野生の生物は、野生で育つ方が良いに決まっている。だから、名前だって付けていないんじゃないか。
「仕方ありませんね……付いていって差し上げます」
 溜息交じりにエルシィが言った。
「ええぇ! いいよ。別に」
「良くありません! さあ、行きましょう」
 いいって言ったのに……。
 エルシィは、意気揚々と街へと歩き始めてしまった。

**********

 街へ着くと、まずは食材を売っている店を目指した。出来れば、林檎や桃などの果物を仕入れたい。
「意外と混んでいますね」
 エルシィが言うように、普段よりも人通りは多い気がした。
「市場でもやってんじゃねぇの?」
 適当に言ったのに、大通りへ出たら本当に市場が開かれていた。
「これなら、食材も安く手に入りそうですね」
「お! あそこに林檎が売ってるぜ」
 俺は、頭の上の雛を落とさないように気をつけながら、露天へと駆け寄った。
「いらっしゃい! 兄さん」
「この林檎いくらだ?」
「さっすが、お目が高いですね。昨日採れたばかりのフレッシュな林檎で色艶も最高ですよ。3個で銀貨1枚ですね」
「高けぇ……」
 銀貨1枚あれば、ミルク1樽と小麦パンを7日分買ってもお釣りが来る。それを、林檎3個って……。
「少し高いようですが。もう少し安くなりませんか?」
後から来たエルシィが聞いた。ナイスだ、エルシィ!
「これは輸送に金が掛かってるんで……それじゃあ、こっちのはどうです? 少し小ぶりですが甘いですよ。これなら5個で銅貨3枚。格安でしょ?」
 なんだよ。手頃なのあるじゃねぇか。ちょっと色合いは薄いけど、まあ、雛の餌だからいいか。
「じゃあ、それくれよっ」
「はいっ! 毎度ありっ!」
 所々しみのあるエプロンを付けた露天商のオヤジは、嬉しそうに果物を袋に詰め始めた。
 すると、聞き覚えのある声が上から降ってきた。
「これはこれは。エルシィ殿とシェルティ殿ではありませんか。こんなところで何をしておいでですかな?」
 声の主は、ディラン将軍だった。
「ディラン将軍。あなたこそ、お買い物ですか?」
 屈強な体つきに似合わず、野菜などを詰め込んだ紙袋が筋肉質な腕のなかに小さく納まっていた。
「ええ、まあ。ところで、その果物をお買いになったのですかな?」
 将軍が示した先には、オヤジが抱えた袋詰めの終わった果物があった。
「そうだよ。こいつ、雛の餌にするんだ」
「なんと!? その鳥の餌にですか? それはいけませんっ。露天商、その果物を返品できますかな?」
「なっ!! できませんよ!」
 突然割り込んできた将軍に、買った物を返却すると言われてオヤジは機嫌が悪くなったようだ。
 そりゃ、そうだ。俺だって驚いてる。
「どうしたんですか? ディラン将軍」
「小さな鳥に水分の多い果物は良くないのです。それに、その果物は酸味が強く繊維質も多いので、火を通さなければ我々でも食すのは困難なのですよ」
「甘くないのかっ?」
 キッ! と露天商のオヤジを睨みつけると、しまったという顔をしていた。
「それでは、私が買い取りましょう。おいくらですかな?」
「銅貨3枚でした」
 エルシィが言うと、将軍は驚いた顔を見せた。
「なんと!? 3枚も? 露天商、少し高くしすぎではありませんかな?」
「た、高くなんかありませんよ。値段をいくらにしようと自由なはずです」
 ムキになって反論するオヤジに、一瞬の間をおいて将軍は口を開いた。
「では、こちらの林檎の値段はいくらですかな? これは最高値が決められているはずです。それとも……露天許可証を見せていただいた方がよろしいですかな?」
 明らかにオヤジは動揺していた。
 結局、俺達はその店では何も買わなかった。
「ありがとうございます。ディラン将軍」
「いやいや。このくらい。それより、シェルティ殿。頭の上で鳥を飼うとは、また面白い事を始めましたな」
 だから、飼ってねぇって。
「雛を入れる箱がなかったから、乗せてるだけだ」
「そうでしたか。これは失礼。して……なんていう種類の鳥ですかな?」
「知らねぇよ」
 隣を歩くエルシィが呆れたように溜息を付いた。
「あははは。シェルティ殿らしいですな。では、この私めが、少々お力になれるやもしれません」
「ディラン将軍? 鳥を育てた事がおありなのですか?」
「ええ、まあ。幼い頃の話ですが……そういえば、シェルティ殿の鳥にお名前は付けたのですかな?」
 名前は付けていない。野生に帰す生物には名前を付けない方がいいって聞いた事があったからだ。
「雛に名前なんか――」
「おお。ヒナというのですか。可愛らしい名前ですな」
「ちがっ……」
「あら、名前を付けていたんですね」
 だから、そうじゃねぇって!
「どれどれ、ヒナ殿。こちらへ――」
そういって将軍が俺の頭に手を伸ばすと――
ピィィィィー! ピピィ!
雛はバタバタと暴れ始めた。
「ちょっ! おいっ! 暴れんなって……落ちるっ」
 将軍が渋々手を引っ込めると、ようやく雛は落ち着いた。
「きっと、その茶色いお髭が威圧感を与えているのですね。私なら――」
 今度はエルシィがそうっと手を伸ばしたが、やっぱり雛は激しく抵抗した。
「シェルティ殿に懐いておるんですな」
「シェルティに……」
 エルシィは、悲痛な表情で俺を見た。自分まで拒絶された事がショックだったらしい。
「懐かれてもなぁ……」
 その後、将軍の好意で鳥の世話を教えてもらう事になり、俺達は街を後にした。

あとがき


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