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[本] おしらせ [本]
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byルピナス
*次回第6話は、6/15up予定です
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1話 シェルティーの拾い物 [シェルティーとヒナの青い空]

 足を一歩踏み出す度に、ふわりと黄金色の枯れ葉が浮き上がる。力いっぱい踏み出した割りに、ふかふかと積もり積もった枯れ葉に吸い込まれ、足がちっとも前に進まない。
「くそっ。迷い込んだのかよ」
 見慣れない景色に囲まれた俺は、この森に入ったことを後悔し始めていた。
 散策には慣れていた筈なのに。
 ほんの少し休憩のつもりで昼寝をしていたら、そこはあろうことか、魔物の餌場だったんだ。
 自分の狩場を荒らされたと憤慨したのか、それとも俺を餌と認識したのか、俺は魔物に追われる破目になった。
「あいつ、しつこいぜっ」
 姿こそ見えない魔物だったが、隠そうともしない熱風の様な殺気がまっすぐに俺に降り注ぐ。
 できれば戦闘を回避したい俺は、素早い動きで翻弄してはみたものの、周囲にある手を伸ばせばすぐに木肌に触れる事が出来る程に密集した木々が、俺の行動を抑制した。同時にそれは、戦うには狭すぎる場所だということも証明していた。
 このままだと魔物から逃れるのは難しい。かといって、無用な殺生は好きじゃない。
 どうすれば……。
 考えた俺は、ヤツの動きだけを止めてその隙に逃げるという行為を選択した。動きを封じるだけなら、翼もしくは足に一撃を加えるだけで十分だからだ。
 すぐに魔物の気配を探った。
 ヤツは何処だ? 絶大な殺気を放出しているが、むしろ大きすぎて魔物を位置を特定しづらい。
 俺が精神を集中し、神経を研ぎ澄ませていると――
――ガサッ
「そこかっっっ!!」
 振り向き様に放った俺の両刃のダガーは、ガッっと鋭い音をさせて木肌に突き刺さった。
 しかし、そこに魔物の姿はない。
 一瞬の間をおいて、白い小型の動物らしきものが飛び出てきた。
「なんだ……兎か……」
 張り詰めていた緊張が一気に削がれた。
 次の瞬間。
 背後からの強風に煽られ、気が抜けていた俺は体勢を崩した。
「うわっ、と」
 ほんの僅かのことだ。
 だが、ヤツはその隙を見逃さなかった。
 魔物の気配が一気に膨れ上がったかと思うと、強烈な衝撃が俺の腹を突き抜けた。
「ぐぅはぁっっ!」
 ヤツの姿を確認する間もなく、俺は吹っ飛ばされた。ズキズキと痛む肺の辺りを気にしながらも、俺は魔物の姿を捕らえようと顔を上げた。
 すると、またも強風が通り過ぎる。
――来るっ!
 今度は、考える間も無く体が反応した。
 足で地面を蹴り上げ、片手で体の向きをコントロールしながら転がるようにして飛び退いた。足場が悪いせいで完全には避けきれない。
「くっ……」
 鋭利な衝撃が頬をかすめる。
 次いでドンッという凄まじい音とともに大地が揺れ、降り積もっていた枯れ葉が舞い上がり、 視界が黄金色に染まった。
 ヤツ――グリファンは、俺の直ぐ目の前にいた。
 有り余る覇気を俺にぶつけるようにして、ジッとこちらを見据えている。滑らかで筋肉質な俺より何倍も大きな肢体とその先に備わった鋭い爪。広げるとそれだけで風を巻き起こす美しい翼。そして、均整のとれた顔に金色に輝く嘴(くちばし)が、俺を獲物と見定めていた。
――キェェェェェェェッ!!!
 それは、グリファンの奇声にも似た戦闘合図の叫びだった。
 もはや躊躇している余裕はない。一撃で仕留めなければいけない。そうしなければ、俺は本当にヤツの餌になる。
 俺は覚悟を決めた。
 グリファンが助走を付けるために翼を広げたのと同時に、俺も攻撃態勢へと入る。
 ヤツが下りてくるまでが勝負だった。
 素早く両手で印をふむ。
 目を瞑り、呪文を口にのせ、右手で素早く宙に紋を描く。威力の強い高位呪文ほど長くて、消耗する精神力が膨大なのが最大のデメリット。それでも得られる破壊力を考慮したら必要な犠牲だ。
 上空から、ごぉぉぉぉっという 音が迫ってくる。
 早いっ!
 俺は逸る気持ちを押し殺して、呪文を続けた。
 轟音は、振動を伴って頭上から降り注いでいる。
 ヤツが直ぐそこまで迫っているんだ。
 もう少し、もう少しで……。
 やっとのことで長い呪文を唱え終わると、俺は瞳を見開き、全身の力を両手にのせた。
 強風が吹き荒れる。
 舞い上がる枯れ葉で視界はふさがれた。
 しかし、ヤツの位置は明白だった。
 強大な覇気と、鋭利な殺気。
 そして――
「雷光!!!」
 叫んだのと同時に真っ白い無数の閃光が魔物の体めがけて突き刺さる。
 俺の眼前でヤツの体が反り返った。
――キィァァァッ!!!
 叫びとともに失速する魔物。あたりに焼け焦げた匂いが充満した。
 やっと終わった。
 ほっと息を付くと、気が抜けたのかドサリと地面に尻餅をついた。
 反動で胸の辺りに走った激痛に顔を顰めながら、俺はちょうど後ろにあった木の根元に背中を預ける。
 体中の力が抜けた。
 立ち上がる気にもなれず、俺は首を傾けた。体が重い。
「運動不足……だ……ぜ」
 すると、視線の先に両手で包み込めるほどの小さな乳白色の塊が見えた。
 それは――
 口をパクパクさせながらピチュピチュと鳴き、俺の顔をジッと見つめていた。




あとがき


2話 名前はヒナ [シェルティーとヒナの青い空]

 天色(あまいろ)に真っ白い雲が浮かんで、いつもと同じ空なのに、見上げた俺は妙に感慨を覚えた。
 怪我をしてから、治るまで家に閉じこもっていたせいかもしれない。
「シェルティー……その頭の上のものは何ですか?」
 突然の声に振り返ると、そこにいたのは青銀の髪をしたエルフの少女エルシィだった。
「……あ? ああ、そうだった」
 エルシィの視線は俺の頭上へと向けられていた。 
 そういえば、頭の上に雛を乗せていたんだった。
「この間、森で散策してる時に拾ったんだ」
「シェルティが!?」
「どういう意味だよ」
「何でまた……?」
無謀なことを、と言いたそうな顔していた。
説明すると長くなりそうだったので、巣から落ちたらしいことだけを掻い摘んで説明する。
「それで、頭の上で飼ってるんですか?」
「違うよっ。今から、こいつのエサを買いに行くんだよ」
「あら、エサですか? 偉いですね。どちらまで?」
「ん? えっと、多分、雑貨屋でいいだろ?」
 街へ行く事は決めていたが、具体的には何も考えてはいない。行ってから決めようと思っていたから。
「随分と曖昧なのですね。買う物がちゃんと分かっているのですか?」
「分かってるよ。食べ物だ」
「いえ、そういうことではなくて。その子は、何ていう種類の鳥なのです?」
 鳥の種類など分かるわけないだろ。親鳥は、灰色の羽をしていたけど。
「知らない」
「知らない!? 種類も分からないのにエサを買いに行くのですか? 鳥を育てた経験があるのですか? シェルティ?」
 なんか、面倒なヤツに会ってしまった気がする。
「……ないよ」
 エルシィは案の定、眉間に皺を寄せた。
「何て無責任なことを言っているのですか? 幼い頃の餌というのは成長には欠かせない大切なものなのですよ。体の基礎を作るものなのですから。まずは、その子の育て方を調べるべきではないのですか?」
「そんなこと言ったって、わからねぇし。それに、いつまでも飼っておくつもりもねぇし」
 野生の生物は、野生で育つ方が良いに決まっている。だから、名前だって付けていないんじゃないか。
「仕方ありませんね……付いていって差し上げます」
 溜息交じりにエルシィが言った。
「ええぇ! いいよ。別に」
「良くありません! さあ、行きましょう」
 いいって言ったのに……。
 エルシィは、意気揚々と街へと歩き始めてしまった。

**********

 街へ着くと、まずは食材を売っている店を目指した。出来れば、林檎や桃などの果物を仕入れたい。
「意外と混んでいますね」
 エルシィが言うように、普段よりも人通りは多い気がした。
「市場でもやってんじゃねぇの?」
 適当に言ったのに、大通りへ出たら本当に市場が開かれていた。
「これなら、食材も安く手に入りそうですね」
「お! あそこに林檎が売ってるぜ」
 俺は、頭の上の雛を落とさないように気をつけながら、露天へと駆け寄った。
「いらっしゃい! 兄さん」
「この林檎いくらだ?」
「さっすが、お目が高いですね。昨日採れたばかりのフレッシュな林檎で色艶も最高ですよ。3個で銀貨1枚ですね」
「高けぇ……」
 銀貨1枚あれば、ミルク1樽と小麦パンを7日分買ってもお釣りが来る。それを、林檎3個って……。
「少し高いようですが。もう少し安くなりませんか?」
後から来たエルシィが聞いた。ナイスだ、エルシィ!
「これは輸送に金が掛かってるんで……それじゃあ、こっちのはどうです? 少し小ぶりですが甘いですよ。これなら5個で銅貨3枚。格安でしょ?」
 なんだよ。手頃なのあるじゃねぇか。ちょっと色合いは薄いけど、まあ、雛の餌だからいいか。
「じゃあ、それくれよっ」
「はいっ! 毎度ありっ!」
 所々しみのあるエプロンを付けた露天商のオヤジは、嬉しそうに果物を袋に詰め始めた。
 すると、聞き覚えのある声が上から降ってきた。
「これはこれは。エルシィ殿とシェルティ殿ではありませんか。こんなところで何をしておいでですかな?」
 声の主は、ディラン将軍だった。
「ディラン将軍。あなたこそ、お買い物ですか?」
 屈強な体つきに似合わず、野菜などを詰め込んだ紙袋が筋肉質な腕のなかに小さく納まっていた。
「ええ、まあ。ところで、その果物をお買いになったのですかな?」
 将軍が示した先には、オヤジが抱えた袋詰めの終わった果物があった。
「そうだよ。こいつ、雛の餌にするんだ」
「なんと!? その鳥の餌にですか? それはいけませんっ。露天商、その果物を返品できますかな?」
「なっ!! できませんよ!」
 突然割り込んできた将軍に、買った物を返却すると言われてオヤジは機嫌が悪くなったようだ。
 そりゃ、そうだ。俺だって驚いてる。
「どうしたんですか? ディラン将軍」
「小さな鳥に水分の多い果物は良くないのです。それに、その果物は酸味が強く繊維質も多いので、火を通さなければ我々でも食すのは困難なのですよ」
「甘くないのかっ?」
 キッ! と露天商のオヤジを睨みつけると、しまったという顔をしていた。
「それでは、私が買い取りましょう。おいくらですかな?」
「銅貨3枚でした」
 エルシィが言うと、将軍は驚いた顔を見せた。
「なんと!? 3枚も? 露天商、少し高くしすぎではありませんかな?」
「た、高くなんかありませんよ。値段をいくらにしようと自由なはずです」
 ムキになって反論するオヤジに、一瞬の間をおいて将軍は口を開いた。
「では、こちらの林檎の値段はいくらですかな? これは最高値が決められているはずです。それとも……露天許可証を見せていただいた方がよろしいですかな?」
 明らかにオヤジは動揺していた。
 結局、俺達はその店では何も買わなかった。
「ありがとうございます。ディラン将軍」
「いやいや。このくらい。それより、シェルティ殿。頭の上で鳥を飼うとは、また面白い事を始めましたな」
 だから、飼ってねぇって。
「雛を入れる箱がなかったから、乗せてるだけだ」
「そうでしたか。これは失礼。して……なんていう種類の鳥ですかな?」
「知らねぇよ」
 隣を歩くエルシィが呆れたように溜息を付いた。
「あははは。シェルティ殿らしいですな。では、この私めが、少々お力になれるやもしれません」
「ディラン将軍? 鳥を育てた事がおありなのですか?」
「ええ、まあ。幼い頃の話ですが……そういえば、シェルティ殿の鳥にお名前は付けたのですかな?」
 名前は付けていない。野生に帰す生物には名前を付けない方がいいって聞いた事があったからだ。
「雛に名前なんか――」
「おお。ヒナというのですか。可愛らしい名前ですな」
「ちがっ……」
「あら、名前を付けていたんですね」
 だから、そうじゃねぇって!
「どれどれ、ヒナ殿。こちらへ――」
そういって将軍が俺の頭に手を伸ばすと――
ピィィィィー! ピピィ!
雛はバタバタと暴れ始めた。
「ちょっ! おいっ! 暴れんなって……落ちるっ」
 将軍が渋々手を引っ込めると、ようやく雛は落ち着いた。
「きっと、その茶色いお髭が威圧感を与えているのですね。私なら――」
 今度はエルシィがそうっと手を伸ばしたが、やっぱり雛は激しく抵抗した。
「シェルティ殿に懐いておるんですな」
「シェルティに……」
 エルシィは、悲痛な表情で俺を見た。自分まで拒絶された事がショックだったらしい。
「懐かれてもなぁ……」
 その後、将軍の好意で鳥の世話を教えてもらう事になり、俺達は街を後にした。

あとがき


3話 空とヒナ [シェルティーとヒナの青い空]

 俺が雛を拾ってきて3ヶ月が経った。最初は苦労していた餌やりも、面倒だった巣箱の掃除も今では毎日の日課になっている。
 俺にしては、よく続いていると思う。
 最初は両手サイズだった雛は、頭の上に乗せるにはムリがある程度にまで成長して、白かった羽が淡い灰色になった。
「おーい、散歩に行くぞー。どこだー、雛~?」
 これも日課だ。
 けど、家の中に、雛の姿は見当たらなかった。いつもなら散歩に連れ出せと、うるさくピィピィ鳴くくせに。
 どこへ隠れたんだ?
 雛の寝床には、本来あるべき柵は作っていなかった。設置しようとしたら、ひどく暴れて抵抗したからだ。雛は、部屋の中を自由に歩き回ることが好きらしかった。
 でも、どこを探しても見つからない。獣としての気配も感じられなかった。
 2階への階段を登ると、俺の寝室と物置として使っている部屋がある。
 雛は、時々俺のベッドで寝ていることがあるけど。
――いない。
 俺が物置部屋へ移動しようとすると、廊下の隅の窓があいているのが見えた。
 あ? 閉め忘れたか?
 そう思った次の瞬間、俺ははっとして窓に駆け寄った。勢いよく窓を開け放ち、身を乗り出して下を除き見るが、雛の姿はない。
 ほっとしながらも、もしかして……と疑念を拭えなかった。
 俺は急いで家の周りを捜索した。屋根の上や、柱の隙間、屋根下はもちろん、庭草の中まで。
 雛は、どこにもいなかった。
 まだ飛ぶことも出来ないのに、2階から落ちたらただで済むはずがない。せっかく順調に育っていたっていうのに。
 くそっ! 俺のせいだ! 俺が窓を閉め忘れたせいで……。
「雛ーーー! どこだー!」
 俺の声は、澄み切った青い空へと吸い込まれ、風が静かに俺の髪を乱していった。
 答えられない程弱っているか、声の届かない場所に移動しているか……。
 雛は、これから飛ぶ練習をさせ、狩りの仕方を教えるつもりだった。まだ、一人で遠くへ行けるはずもない。
 まさか、もう野生に帰ったなんて……
 ディランは、親離れの時期には早いとは言っていたけど。野生の生物を育てた経験がないから、俺には分からない。
 もし、本当に雛が野生に戻ったとしたら、俺はここで雛を追いかけてはいけない。例え、結果として、雛が食物連鎖の渦に巻き込まれたとしてもだ。
 俺は、雛の足で行動できるであろう範囲を散策し終わると、諦めて家へと戻った。
 雛の寝床には、淡い灰色の羽が落ちている。餌箱は空だった。
 すると――
 ピィュュューーー
 雛の声だ!
 扉が壊れそうな音を立てるのも構わずに、俺は外へ飛び出した。
 ピィュュュー
 泣き声は、上空から落ちてきた。
 見上げると、日差しが突き抜けたような青い空に、まだ淡い灰色をした両翼をいっぱいに広げて飛んでいる雛の姿があった。
「雛!!」
 俺の声に反応してか、雛はゆっくりと大きな円を描いて俺の前に降り立った。
「お前! 飛べるようになったんだなっ! どこ行ってたんだよっ! ったく!」
 俺の顔をみて、雛が首を傾げた。散歩だよと、無邪気に言ってる気がした。
 駆け寄って、柔らかい灰色の羽を撫でてやる。
 嬉しさと怒りとが入り混じった感情の渦が、俺の中から込み上げた。
 こんな時、飛べた事を褒めるのか、勝手に外出したことを怒るのか――俺の不注意だが――言葉が見つからない。
 雛の頭を撫でていると、傍でもそもそと小さな影が動いた。
 雛は、それを銜(くわ)えて俺の前に差し出す。
「ね、鼠!?」
 致命傷を受け、血が滲んでピクピクしている。
「……お前が捕まえたのか……?」
 雛は俺を顔をじっと見て、褒めてもらえるのを待っているみたいだった。
「仕方ねぇなぁ……良くやったぞ、雛」
 すると、雛は嬉しそうにピュィと鳴いた。




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あとがき


4話 紅い羽 [シェルティーとヒナの青い空]

 「雛! 降りて来いよ」
 空を気持ち良さそうに飛ぶ雛を見上げて叫んだ。
 噴水広場の中央より外れた拓けた場所に、俺とエルシィと将軍であるディランは、円卓を囲んで座っていた。 その真上を優雅に飛んでいた雛が、ゆっくりと空を惜しむように、円を描いて降下してくる。
「ほほう、これはこれは……ヒナ殿は、シェルティ殿の言葉をしっかりと理解しているようですな」
 顎鬚をいじりながらディランが驚いた顔をした。
 実際には、なんでも言う事を理解しているわけじゃないが、なんとなく伝わってるような気はする。
「一応、お世話はしっかりしているようですわね」
 雛の様子が心配で、時々俺に説教じみた事を言うエルシィは、俺の頭の上の雛をみて安心したように頷いた。
「一応は余計だよ」
「それにしても、大きくなりましたなぁ」
「本当ですわね。羽の色も最近灰色になったばかりだというのに、もう新しく紅い羽が混ざっていますわね」
 エルシィの言う通り、雛の成長は早かった。空の飛び方も餌の取り方も、教えたわけじゃないのに会得してるし。これが、本能ってやつなんだろうか。
 拾った時は、白っぽかった羽も3ヵ月も経たないうちに灰色に変わって、最近また新しく紅い色の羽に生え変わろうとしているらしい。
「でも、この羽の色、とても綺麗ですわ。真っ赤というわけではなく、紅葉の様に太陽の光を織り込んだような赤ですわね」
「全身生え変わったら、それは見事な色彩をみせてくれるのでしょうな。なんとも楽しみですなぁ」
 のんきに雛を鑑賞する二人の視線は、常に俺の頭上にあった。
 両手で抱えないと持ち上げる事が出来ないまでに成長したっていうのに、雛は相変わらず俺の頭の上を指定席としている。成長した事もあって、足の爪が頭に刺さったり、結構重いから降りて欲しいのに、それだけは拒む。
 せめて、肩にしてもらいたい。
「で、ディラン。分かったのか?」
 俺は、本来の目的に話を戻した。
 顔が緩みっぱなしだったディランが、眉をひそめて唸る。
「……残念ながら、私の記憶にも覚えがないのです。資料室の蔵書も調べてはみましたが。この様に羽の色彩が変化する鳥などは、初めて見る鳥ですな」
 ディランはすまなそうに目を細めた。
「拾った場所へ行ってみたら、親鳥がいるのではなくて?」
「もちろん行ってきた。でも、巣はもぬけの空で、それらしい似たような鳥も見つけられなかった」
 そういえば、俺がグリファンを倒したのは巣の傍だった。たぶん、その時の衝撃で雛は落ちてしまったんだろうけど。
 できれば、早く親鳥か仲間を見つけて野生に返す訓練をしてやりたい。
「困りましたわねぇ」
 エルシィが、頬に手を当てて傾げる。俺も腕組をして考えたが、何の案も浮かばない。とりあえずは、育てる事しかしてやれない。本来なら、仲間とのコミュニケーションやら、敵を認識して防衛する知識やらを学ぶ必要があると思うけど。
「引き続き、私の方で情報などを集めておきましょう。シェルティ殿は、なるべく野生に近い育て方をするという事で、今はどうですかな?」
「まあ、それしかないんだろうな」
 嘆息した俺は、椅子の背にもたれて噴水へと視線を向けた。小さな噴水だが、シンボルの彫刻を濡らす水飛沫が、太陽光を反射して眩しかった。
 ふと、噴水の向こう側に見慣れた服装の人影を見つける。ディランと同じ軍隊の制服じゃないだろうか。随分と慌てた様子に見えるが。
「将軍! ディラン将軍! 大変ですっ」
「ん? なんだ? どうした? そんなに大声で」
「将軍、こんなところにいらっしゃったんですね……」
 駆け寄ってきた黒髪の青年は、乱した息を整える間もなくまくし立てた。
「出たんです、森に! グリファンがっ!」
「なんじゃと!」
 グリファンと聞いて、俺も落ち着かなくなった。
「南東にある憂彩(ゆうさい)の森です。今、第2小隊が防衛に当たっていますが――」
「そんな少人数じゃ対応できないだろう! ディラン行くぞ」
「はっ……いや、シェルティ殿はこちらに控えていて下さい。たかだが猛獣1匹、私一人で十分でしょう」
「いえっ、グリファンは2匹です!」
「なにっ!」
 青年の言葉に、さすがのディランも顔をしかめた。
「仕方ありませんね、私も参ります」
 厳しい顔をしてエルシィが立ち上がる。
 俺達3人の動きを見た青年は、どこか安心した面持ちだったが、状況はそんなに甘いものではない事くらい容易に想像できた。
 俺達は青年の案内で駆け出す。
 雛は、そんな俺の頭上を散歩にでも付いてくるかのように飛んでいた。

あとがき


5話 2匹のグリファン [シェルティーとヒナの青い空]

 グリファンが現れたという憂彩(ゆうさい)の森は、城のある首都から南東へ歩いて半刻ほど行った場所にある。その広さは、未だに治安部隊が探索しきれていない場所があるほど、広大で深部は複雑な暗闇が広がっているらしかった。
 俺達は、一番早いであろう飼い慣らした軍馬で、その森を目指した。
「どの辺りだ!?」
 俺は、呼びに来た兵士、ザイにしがみ付きながら叫ぶ。
「西側入口のエイール川が流れている場所です!」
 必死に馬を操るザイは、並走するディランにも聞こえるように答えた。
「なっ……」
「街に一番近い場所ではないか!」
 ディランと同じ馬に乗っているエルシィとも目が合い、お互いに苦い顔を隠せなかった。
「他の部隊には連絡したのか?」
「はい。城には報告済みです。ですが、ちょうど遠征中のようで応援は難しいとのことでした」
 こんな時に! タイミングが悪すぎる。
 俺は、ちらりと隣を見やった。ベテランとはいえ、俺から見れば老兵に足を踏み入れた領域にいるディラン。魔術と才能に長けた非力な女性のエルシィ。人並みはずれた能力とはいえ、この人数でなんとかなるのかは疑問だ。
 二人に聞こえれば、憤慨して訂正されそうだけど。相手は、グリファン2匹。全力でいったとしても、怪我だけではすまないかもしれない。
「見えてきました! あそこです」
 ザイが示唆した場所には、茶褐色の大きな翼と、黄金色のたくましい四肢を持つグリファンがいた。
好き放題に暴れやがって!
「くそっ! 間に合えよ……って、なんだ、あれ……?」
 グリファンから少し離れた場所に、茶色い大きな岩のようなものが見えた。遠くて、良く分からない。目を凝らしていると、突然、馬が減速し始めた。
 どうした? と尋ねる前に、兵士は手綱を左右に降り乱した。
「いかん! シェルティ殿、エルシィ殿。ここで降りますぞ!」
 並走していたディランは馬を引き戻し、暴れ始めた馬を宥(なだ)める。
「まだ、距離があるぜ?」
「馬で近寄るのは危険です。グリファンの好物は馬ですから。馬はそれを本能で知っているのです。これ以上は近づけないでしょうな」
 目的地は目前だというのに。
「シェルティ様! これ以上は制御していられません」
「仕方ない、馬を下りて走るぞ!」
 俺は一足先に飛び降りて、森まで続く坂を駆け上がった。
 グリファンと戦っている兵士達の姿が、しだいにはっきりとしてきた。今にも森の外へ飛び出そうとしているグリファンを、兵士達は必死に押さえ込もうとしている。
 だが、圧倒的に劣勢だ。
 鋭い鷲爪の前足と、強固で筋肉質な後ろ足を、馬の3倍はあろうかというグリファンは軽快に振り下ろす。まともに食らえば、一撃で風穴があく。
 避けきれない兵士が、何人かグリファンの下敷きになった。
「くそっ!」
 俺は、ぎりぎり射程内に入ったところで立ち止まった。素早く、印を結ぶ。
「シェルティ! まだ早いわ。周囲の兵士が巻き添えになってしまいます!」
 後ろから叫ぶエルシィに構わず、俺は呪文を唱えた。
 急がなければ、全滅してしまう。致命傷を与えられなくてもいい! 一瞬の足止めだけでも。
「俺がグリファンを足止めする! その間に兵士達を下がらせろ! エルシィは怪我人の治療を! ディラン! 援護を頼む!」
 一気に捲くし立てた。多分、伝わったと思う。
 俺の横を、今にも破裂しそうな覇気を纏わせてディランが駆け抜けていった。
 俺は、グリファンに照準を合わせる。
 集中しろ! 狙いはグリファンのみだ。神経を細く、鋭く、強靭なものにする!
 兵士を前足で押しつぶしたまのグリファンは、威嚇(いかく)のように奇声を発した。怯(ひる)む兵士を鋭い眼光が捕らえている。
 まだだ。まだ早い。焦るな。
 ディランが兵士達の後方に追いつくと、一瞬希望に似た歓声があがった。その間を抜けて、ディランは大剣を振り上げた。
 殺気に満ちたグリファンが大きく体を仰け反らせ、ディランを敵と認識する。鋭い鷲爪は、ディランの大剣の前に立ち塞がった。ディランはそれを払いのけ、回転するようにグリファンの腹へと大剣を振るった。
 だが、それより速く、もう片方の鷲爪が屈強なはずのディランを払いのけた。
「ディラン!」
 地面に叩きつけられたディランに、思わず意識が逸れる。
 グリファンは、ディランに詰め寄り、再び足をたたき降ろそうとしていた。
 ディランは起き上がらない。
 早く! 早くしろ!
 体中に熱が集まってきていた。心臓が早鐘を打ち、今にも破裂しそうだった。
 グリファンは、獲物に止めを刺す一撃を放つ。
 ディラン!
 だが、悲鳴を上げたのはディランではなく、グリファンだった。
 振り下ろされた前足には、ディランの大剣が突き刺さっていた。ディランが、転がるように後退したのが見えた。
 俺は、両手で空を切った。
 そして、叫ぶ。
「雷光!」
 同時に、俺の中から何かが弾け飛んだ。
 一瞬にして、幾つもの閃光が、グリファンを突き抜ける。
 ――キィィィィィィ! 
 断末魔の叫びと共に、グリファンはその身を地面に横たえた。
 俺は素早く駆け寄った。
「ディラン! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です、これくらいどうという事はありません。しかし、歳は取りたくないもんですなぁ。あははは」
「それだけ笑えれば大丈夫か。兵士も無事だな」
 後方でエルシィに治療を受けている、グリファンの下敷きになっていた兵士を見て言った。怪我人は多そうだった。
「しかし、報告では2匹いたのではなかったですかな?」
 ディランが肩を押さえながら言う。確かにザイは、グリファンが2匹出たと言っていた。もう1匹は場所が違うのか? 移動が面倒ではないか。
「もう1匹は、森の中です!」
 片手剣を手にしたザイが駆け寄ってきた。さっきまで、エルシィを手伝って、仲間の治療をしていたはずだったが。
「では、行きますかな」
 何でもないようにディランが言って、グリファンの足に刺さった大剣を抜き取った。その後にザイが従った。
「こいつはどうする? 致命傷じゃないだろうから、目を覚ましたら厄介だぞ。このまま放置していくわけにも――」
 言いながらグリファンに近づくと、傍にあるものを見て、俺はぎょっとした。
「なんだよ……これ」
 横倒しになった馬が、何頭も山積みになっている!しかも、血まみれで、酷いものは腹が割け内臓が見えている馬もある。さっき見えていた、茶色い岩の様なものはこれだったのだ!
 これを、グリファンがやったのか。馬を攻撃するだけじゃなく、わざわざ一箇所に集めたのか。
 何のために。
「自分の獲物だと誇示する為でしょうな」
 ディランが淡々と答える。
 それが、グリファンの本能か。
 考えると、ぞっとした。
 急に、血なまぐさい臭いがした。
 




あとがき


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