おしらせ
このブログはルピナスの書く小説を押し込めたブログです。主に短編で、時に二次小説を含むかもしれませんブログ内の文章および画像は、許可を出した時以外は転載・転写・複写・配布などは禁止です。よろしくお願いします
新連載「シェルティーとヒナの青い空」は、ブログ友達すずなちゃんのオリジナルキャラクターを許可を得てお借りして描いています。よってキャラクターの著作権はすずなちゃんにあります。
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シェルティーとヒナの青い空 は、すずなちゃんの書くエル・ティリアとは別物になります。内容や世界観は繋がっておりません。管理人独自の勝手な妄想ですwあしからず。
byルピナス
*次回第6話は、6/15up予定です
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5話 2匹のグリファン [シェルティーとヒナの青い空]
グリファンが現れたという憂彩(ゆうさい)の森は、城のある首都から南東へ歩いて半刻ほど行った場所にある。その広さは、未だに治安部隊が探索しきれていない場所があるほど、広大で深部は複雑な暗闇が広がっているらしかった。
俺達は、一番早いであろう飼い慣らした軍馬で、その森を目指した。
「どの辺りだ!?」
俺は、呼びに来た兵士、ザイにしがみ付きながら叫ぶ。
「西側入口のエイール川が流れている場所です!」
必死に馬を操るザイは、並走するディランにも聞こえるように答えた。
「なっ……」
「街に一番近い場所ではないか!」
ディランと同じ馬に乗っているエルシィとも目が合い、お互いに苦い顔を隠せなかった。
「他の部隊には連絡したのか?」
「はい。城には報告済みです。ですが、ちょうど遠征中のようで応援は難しいとのことでした」
こんな時に! タイミングが悪すぎる。
俺は、ちらりと隣を見やった。ベテランとはいえ、俺から見れば老兵に足を踏み入れた領域にいるディラン。魔術と才能に長けた非力な女性のエルシィ。人並みはずれた能力とはいえ、この人数でなんとかなるのかは疑問だ。
二人に聞こえれば、憤慨して訂正されそうだけど。相手は、グリファン2匹。全力でいったとしても、怪我だけではすまないかもしれない。
「見えてきました! あそこです」
ザイが示唆した場所には、茶褐色の大きな翼と、黄金色のたくましい四肢を持つグリファンがいた。
好き放題に暴れやがって!
「くそっ! 間に合えよ……って、なんだ、あれ……?」
グリファンから少し離れた場所に、茶色い大きな岩のようなものが見えた。遠くて、良く分からない。目を凝らしていると、突然、馬が減速し始めた。
どうした? と尋ねる前に、兵士は手綱を左右に降り乱した。
「いかん! シェルティ殿、エルシィ殿。ここで降りますぞ!」
並走していたディランは馬を引き戻し、暴れ始めた馬を宥(なだ)める。
「まだ、距離があるぜ?」
「馬で近寄るのは危険です。グリファンの好物は馬ですから。馬はそれを本能で知っているのです。これ以上は近づけないでしょうな」
目的地は目前だというのに。
「シェルティ様! これ以上は制御していられません」
「仕方ない、馬を下りて走るぞ!」
俺は一足先に飛び降りて、森まで続く坂を駆け上がった。
グリファンと戦っている兵士達の姿が、しだいにはっきりとしてきた。今にも森の外へ飛び出そうとしているグリファンを、兵士達は必死に押さえ込もうとしている。
だが、圧倒的に劣勢だ。
鋭い鷲爪の前足と、強固で筋肉質な後ろ足を、馬の3倍はあろうかというグリファンは軽快に振り下ろす。まともに食らえば、一撃で風穴があく。
避けきれない兵士が、何人かグリファンの下敷きになった。
「くそっ!」
俺は、ぎりぎり射程内に入ったところで立ち止まった。素早く、印を結ぶ。
「シェルティ! まだ早いわ。周囲の兵士が巻き添えになってしまいます!」
後ろから叫ぶエルシィに構わず、俺は呪文を唱えた。
急がなければ、全滅してしまう。致命傷を与えられなくてもいい! 一瞬の足止めだけでも。
「俺がグリファンを足止めする! その間に兵士達を下がらせろ! エルシィは怪我人の治療を! ディラン! 援護を頼む!」
一気に捲くし立てた。多分、伝わったと思う。
俺の横を、今にも破裂しそうな覇気を纏わせてディランが駆け抜けていった。
俺は、グリファンに照準を合わせる。
集中しろ! 狙いはグリファンのみだ。神経を細く、鋭く、強靭なものにする!
兵士を前足で押しつぶしたまのグリファンは、威嚇(いかく)のように奇声を発した。怯(ひる)む兵士を鋭い眼光が捕らえている。
まだだ。まだ早い。焦るな。
ディランが兵士達の後方に追いつくと、一瞬希望に似た歓声があがった。その間を抜けて、ディランは大剣を振り上げた。
殺気に満ちたグリファンが大きく体を仰け反らせ、ディランを敵と認識する。鋭い鷲爪は、ディランの大剣の前に立ち塞がった。ディランはそれを払いのけ、回転するようにグリファンの腹へと大剣を振るった。
だが、それより速く、もう片方の鷲爪が屈強なはずのディランを払いのけた。
「ディラン!」
地面に叩きつけられたディランに、思わず意識が逸れる。
グリファンは、ディランに詰め寄り、再び足をたたき降ろそうとしていた。
ディランは起き上がらない。
早く! 早くしろ!
体中に熱が集まってきていた。心臓が早鐘を打ち、今にも破裂しそうだった。
グリファンは、獲物に止めを刺す一撃を放つ。
ディラン!
だが、悲鳴を上げたのはディランではなく、グリファンだった。
振り下ろされた前足には、ディランの大剣が突き刺さっていた。ディランが、転がるように後退したのが見えた。
俺は、両手で空を切った。
そして、叫ぶ。
「雷光!」
同時に、俺の中から何かが弾け飛んだ。
一瞬にして、幾つもの閃光が、グリファンを突き抜ける。
――キィィィィィィ!
断末魔の叫びと共に、グリファンはその身を地面に横たえた。
俺は素早く駆け寄った。
「ディラン! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です、これくらいどうという事はありません。しかし、歳は取りたくないもんですなぁ。あははは」
「それだけ笑えれば大丈夫か。兵士も無事だな」
後方でエルシィに治療を受けている、グリファンの下敷きになっていた兵士を見て言った。怪我人は多そうだった。
「しかし、報告では2匹いたのではなかったですかな?」
ディランが肩を押さえながら言う。確かにザイは、グリファンが2匹出たと言っていた。もう1匹は場所が違うのか? 移動が面倒ではないか。
「もう1匹は、森の中です!」
片手剣を手にしたザイが駆け寄ってきた。さっきまで、エルシィを手伝って、仲間の治療をしていたはずだったが。
「では、行きますかな」
何でもないようにディランが言って、グリファンの足に刺さった大剣を抜き取った。その後にザイが従った。
「こいつはどうする? 致命傷じゃないだろうから、目を覚ましたら厄介だぞ。このまま放置していくわけにも――」
言いながらグリファンに近づくと、傍にあるものを見て、俺はぎょっとした。
「なんだよ……これ」
横倒しになった馬が、何頭も山積みになっている!しかも、血まみれで、酷いものは腹が割け内臓が見えている馬もある。さっき見えていた、茶色い岩の様なものはこれだったのだ!
これを、グリファンがやったのか。馬を攻撃するだけじゃなく、わざわざ一箇所に集めたのか。
何のために。
「自分の獲物だと誇示する為でしょうな」
ディランが淡々と答える。
それが、グリファンの本能か。
考えると、ぞっとした。
急に、血なまぐさい臭いがした。
俺達は、一番早いであろう飼い慣らした軍馬で、その森を目指した。
「どの辺りだ!?」
俺は、呼びに来た兵士、ザイにしがみ付きながら叫ぶ。
「西側入口のエイール川が流れている場所です!」
必死に馬を操るザイは、並走するディランにも聞こえるように答えた。
「なっ……」
「街に一番近い場所ではないか!」
ディランと同じ馬に乗っているエルシィとも目が合い、お互いに苦い顔を隠せなかった。
「他の部隊には連絡したのか?」
「はい。城には報告済みです。ですが、ちょうど遠征中のようで応援は難しいとのことでした」
こんな時に! タイミングが悪すぎる。
俺は、ちらりと隣を見やった。ベテランとはいえ、俺から見れば老兵に足を踏み入れた領域にいるディラン。魔術と才能に長けた非力な女性のエルシィ。人並みはずれた能力とはいえ、この人数でなんとかなるのかは疑問だ。
二人に聞こえれば、憤慨して訂正されそうだけど。相手は、グリファン2匹。全力でいったとしても、怪我だけではすまないかもしれない。
「見えてきました! あそこです」
ザイが示唆した場所には、茶褐色の大きな翼と、黄金色のたくましい四肢を持つグリファンがいた。
好き放題に暴れやがって!
「くそっ! 間に合えよ……って、なんだ、あれ……?」
グリファンから少し離れた場所に、茶色い大きな岩のようなものが見えた。遠くて、良く分からない。目を凝らしていると、突然、馬が減速し始めた。
どうした? と尋ねる前に、兵士は手綱を左右に降り乱した。
「いかん! シェルティ殿、エルシィ殿。ここで降りますぞ!」
並走していたディランは馬を引き戻し、暴れ始めた馬を宥(なだ)める。
「まだ、距離があるぜ?」
「馬で近寄るのは危険です。グリファンの好物は馬ですから。馬はそれを本能で知っているのです。これ以上は近づけないでしょうな」
目的地は目前だというのに。
「シェルティ様! これ以上は制御していられません」
「仕方ない、馬を下りて走るぞ!」
俺は一足先に飛び降りて、森まで続く坂を駆け上がった。
グリファンと戦っている兵士達の姿が、しだいにはっきりとしてきた。今にも森の外へ飛び出そうとしているグリファンを、兵士達は必死に押さえ込もうとしている。
だが、圧倒的に劣勢だ。
鋭い鷲爪の前足と、強固で筋肉質な後ろ足を、馬の3倍はあろうかというグリファンは軽快に振り下ろす。まともに食らえば、一撃で風穴があく。
避けきれない兵士が、何人かグリファンの下敷きになった。
「くそっ!」
俺は、ぎりぎり射程内に入ったところで立ち止まった。素早く、印を結ぶ。
「シェルティ! まだ早いわ。周囲の兵士が巻き添えになってしまいます!」
後ろから叫ぶエルシィに構わず、俺は呪文を唱えた。
急がなければ、全滅してしまう。致命傷を与えられなくてもいい! 一瞬の足止めだけでも。
「俺がグリファンを足止めする! その間に兵士達を下がらせろ! エルシィは怪我人の治療を! ディラン! 援護を頼む!」
一気に捲くし立てた。多分、伝わったと思う。
俺の横を、今にも破裂しそうな覇気を纏わせてディランが駆け抜けていった。
俺は、グリファンに照準を合わせる。
集中しろ! 狙いはグリファンのみだ。神経を細く、鋭く、強靭なものにする!
兵士を前足で押しつぶしたまのグリファンは、威嚇(いかく)のように奇声を発した。怯(ひる)む兵士を鋭い眼光が捕らえている。
まだだ。まだ早い。焦るな。
ディランが兵士達の後方に追いつくと、一瞬希望に似た歓声があがった。その間を抜けて、ディランは大剣を振り上げた。
殺気に満ちたグリファンが大きく体を仰け反らせ、ディランを敵と認識する。鋭い鷲爪は、ディランの大剣の前に立ち塞がった。ディランはそれを払いのけ、回転するようにグリファンの腹へと大剣を振るった。
だが、それより速く、もう片方の鷲爪が屈強なはずのディランを払いのけた。
「ディラン!」
地面に叩きつけられたディランに、思わず意識が逸れる。
グリファンは、ディランに詰め寄り、再び足をたたき降ろそうとしていた。
ディランは起き上がらない。
早く! 早くしろ!
体中に熱が集まってきていた。心臓が早鐘を打ち、今にも破裂しそうだった。
グリファンは、獲物に止めを刺す一撃を放つ。
ディラン!
だが、悲鳴を上げたのはディランではなく、グリファンだった。
振り下ろされた前足には、ディランの大剣が突き刺さっていた。ディランが、転がるように後退したのが見えた。
俺は、両手で空を切った。
そして、叫ぶ。
「雷光!」
同時に、俺の中から何かが弾け飛んだ。
一瞬にして、幾つもの閃光が、グリファンを突き抜ける。
――キィィィィィィ!
断末魔の叫びと共に、グリファンはその身を地面に横たえた。
俺は素早く駆け寄った。
「ディラン! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です、これくらいどうという事はありません。しかし、歳は取りたくないもんですなぁ。あははは」
「それだけ笑えれば大丈夫か。兵士も無事だな」
後方でエルシィに治療を受けている、グリファンの下敷きになっていた兵士を見て言った。怪我人は多そうだった。
「しかし、報告では2匹いたのではなかったですかな?」
ディランが肩を押さえながら言う。確かにザイは、グリファンが2匹出たと言っていた。もう1匹は場所が違うのか? 移動が面倒ではないか。
「もう1匹は、森の中です!」
片手剣を手にしたザイが駆け寄ってきた。さっきまで、エルシィを手伝って、仲間の治療をしていたはずだったが。
「では、行きますかな」
何でもないようにディランが言って、グリファンの足に刺さった大剣を抜き取った。その後にザイが従った。
「こいつはどうする? 致命傷じゃないだろうから、目を覚ましたら厄介だぞ。このまま放置していくわけにも――」
言いながらグリファンに近づくと、傍にあるものを見て、俺はぎょっとした。
「なんだよ……これ」
横倒しになった馬が、何頭も山積みになっている!しかも、血まみれで、酷いものは腹が割け内臓が見えている馬もある。さっき見えていた、茶色い岩の様なものはこれだったのだ!
これを、グリファンがやったのか。馬を攻撃するだけじゃなく、わざわざ一箇所に集めたのか。
何のために。
「自分の獲物だと誇示する為でしょうな」
ディランが淡々と答える。
それが、グリファンの本能か。
考えると、ぞっとした。
急に、血なまぐさい臭いがした。
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