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byルピナス
*次回第6話は、6/15up予定です
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5話 2匹のグリファン [シェルティーとヒナの青い空]

 グリファンが現れたという憂彩(ゆうさい)の森は、城のある首都から南東へ歩いて半刻ほど行った場所にある。その広さは、未だに治安部隊が探索しきれていない場所があるほど、広大で深部は複雑な暗闇が広がっているらしかった。
 俺達は、一番早いであろう飼い慣らした軍馬で、その森を目指した。
「どの辺りだ!?」
 俺は、呼びに来た兵士、ザイにしがみ付きながら叫ぶ。
「西側入口のエイール川が流れている場所です!」
 必死に馬を操るザイは、並走するディランにも聞こえるように答えた。
「なっ……」
「街に一番近い場所ではないか!」
 ディランと同じ馬に乗っているエルシィとも目が合い、お互いに苦い顔を隠せなかった。
「他の部隊には連絡したのか?」
「はい。城には報告済みです。ですが、ちょうど遠征中のようで応援は難しいとのことでした」
 こんな時に! タイミングが悪すぎる。
 俺は、ちらりと隣を見やった。ベテランとはいえ、俺から見れば老兵に足を踏み入れた領域にいるディラン。魔術と才能に長けた非力な女性のエルシィ。人並みはずれた能力とはいえ、この人数でなんとかなるのかは疑問だ。
 二人に聞こえれば、憤慨して訂正されそうだけど。相手は、グリファン2匹。全力でいったとしても、怪我だけではすまないかもしれない。
「見えてきました! あそこです」
 ザイが示唆した場所には、茶褐色の大きな翼と、黄金色のたくましい四肢を持つグリファンがいた。
好き放題に暴れやがって!
「くそっ! 間に合えよ……って、なんだ、あれ……?」
 グリファンから少し離れた場所に、茶色い大きな岩のようなものが見えた。遠くて、良く分からない。目を凝らしていると、突然、馬が減速し始めた。
 どうした? と尋ねる前に、兵士は手綱を左右に降り乱した。
「いかん! シェルティ殿、エルシィ殿。ここで降りますぞ!」
 並走していたディランは馬を引き戻し、暴れ始めた馬を宥(なだ)める。
「まだ、距離があるぜ?」
「馬で近寄るのは危険です。グリファンの好物は馬ですから。馬はそれを本能で知っているのです。これ以上は近づけないでしょうな」
 目的地は目前だというのに。
「シェルティ様! これ以上は制御していられません」
「仕方ない、馬を下りて走るぞ!」
 俺は一足先に飛び降りて、森まで続く坂を駆け上がった。
 グリファンと戦っている兵士達の姿が、しだいにはっきりとしてきた。今にも森の外へ飛び出そうとしているグリファンを、兵士達は必死に押さえ込もうとしている。
 だが、圧倒的に劣勢だ。
 鋭い鷲爪の前足と、強固で筋肉質な後ろ足を、馬の3倍はあろうかというグリファンは軽快に振り下ろす。まともに食らえば、一撃で風穴があく。
 避けきれない兵士が、何人かグリファンの下敷きになった。
「くそっ!」
 俺は、ぎりぎり射程内に入ったところで立ち止まった。素早く、印を結ぶ。
「シェルティ! まだ早いわ。周囲の兵士が巻き添えになってしまいます!」
 後ろから叫ぶエルシィに構わず、俺は呪文を唱えた。
 急がなければ、全滅してしまう。致命傷を与えられなくてもいい! 一瞬の足止めだけでも。
「俺がグリファンを足止めする! その間に兵士達を下がらせろ! エルシィは怪我人の治療を! ディラン! 援護を頼む!」
 一気に捲くし立てた。多分、伝わったと思う。
 俺の横を、今にも破裂しそうな覇気を纏わせてディランが駆け抜けていった。
 俺は、グリファンに照準を合わせる。
 集中しろ! 狙いはグリファンのみだ。神経を細く、鋭く、強靭なものにする!
 兵士を前足で押しつぶしたまのグリファンは、威嚇(いかく)のように奇声を発した。怯(ひる)む兵士を鋭い眼光が捕らえている。
 まだだ。まだ早い。焦るな。
 ディランが兵士達の後方に追いつくと、一瞬希望に似た歓声があがった。その間を抜けて、ディランは大剣を振り上げた。
 殺気に満ちたグリファンが大きく体を仰け反らせ、ディランを敵と認識する。鋭い鷲爪は、ディランの大剣の前に立ち塞がった。ディランはそれを払いのけ、回転するようにグリファンの腹へと大剣を振るった。
 だが、それより速く、もう片方の鷲爪が屈強なはずのディランを払いのけた。
「ディラン!」
 地面に叩きつけられたディランに、思わず意識が逸れる。
 グリファンは、ディランに詰め寄り、再び足をたたき降ろそうとしていた。
 ディランは起き上がらない。
 早く! 早くしろ!
 体中に熱が集まってきていた。心臓が早鐘を打ち、今にも破裂しそうだった。
 グリファンは、獲物に止めを刺す一撃を放つ。
 ディラン!
 だが、悲鳴を上げたのはディランではなく、グリファンだった。
 振り下ろされた前足には、ディランの大剣が突き刺さっていた。ディランが、転がるように後退したのが見えた。
 俺は、両手で空を切った。
 そして、叫ぶ。
「雷光!」
 同時に、俺の中から何かが弾け飛んだ。
 一瞬にして、幾つもの閃光が、グリファンを突き抜ける。
 ――キィィィィィィ! 
 断末魔の叫びと共に、グリファンはその身を地面に横たえた。
 俺は素早く駆け寄った。
「ディラン! 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です、これくらいどうという事はありません。しかし、歳は取りたくないもんですなぁ。あははは」
「それだけ笑えれば大丈夫か。兵士も無事だな」
 後方でエルシィに治療を受けている、グリファンの下敷きになっていた兵士を見て言った。怪我人は多そうだった。
「しかし、報告では2匹いたのではなかったですかな?」
 ディランが肩を押さえながら言う。確かにザイは、グリファンが2匹出たと言っていた。もう1匹は場所が違うのか? 移動が面倒ではないか。
「もう1匹は、森の中です!」
 片手剣を手にしたザイが駆け寄ってきた。さっきまで、エルシィを手伝って、仲間の治療をしていたはずだったが。
「では、行きますかな」
 何でもないようにディランが言って、グリファンの足に刺さった大剣を抜き取った。その後にザイが従った。
「こいつはどうする? 致命傷じゃないだろうから、目を覚ましたら厄介だぞ。このまま放置していくわけにも――」
 言いながらグリファンに近づくと、傍にあるものを見て、俺はぎょっとした。
「なんだよ……これ」
 横倒しになった馬が、何頭も山積みになっている!しかも、血まみれで、酷いものは腹が割け内臓が見えている馬もある。さっき見えていた、茶色い岩の様なものはこれだったのだ!
 これを、グリファンがやったのか。馬を攻撃するだけじゃなく、わざわざ一箇所に集めたのか。
 何のために。
「自分の獲物だと誇示する為でしょうな」
 ディランが淡々と答える。
 それが、グリファンの本能か。
 考えると、ぞっとした。
 急に、血なまぐさい臭いがした。
 




あとがき


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