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byルピナス
*次回第6話は、6/15up予定です

ビターバレンタイン 4話 [ビターバレンタイン 完結]



 あれから結構練習した。


 思っていたよりも難しくて、本の通りに作ってる筈なのに上手くいかない。


 なんで?

 その理由は、本には書いてなかった。

「うーん・・・まただぁ。どうして、こうなるのかなぁ」

 チョコレートを入れたはずのボウルには――


 茶色い紙粘土のような塊と、薄茶色の半透明な液体が入っていた。

 ――というより、出来上がった。



 これって、チョコレート・・・だよね?

 スプーンでつついてみる。


 ものすごく弾力があって、ガムみたい。





 うーん・・・・・・。



「それは食べないぞっっ!!!」

 試食要因として呼び出していた勇喜が、叫んだ。



 そんなに、拒絶しなくてもいいじゃん。



 ・・・・・・まあ、確かに美味しそうには見えないかもだけど。


「やっぱこっちのクッキーにしようかな~」


 ・・・いや、絶対トリュフチョコ作るんだっ! 3回失敗したくらいでなんだ」

 めげないぞ、うん。




 また、チョコレートを刻むところからやり直す。



 ――と


 材料が足りない。肝心のチョコレートが少ししか残っていなかった。


 仕方ない、買いに行ってこよう。

「勇喜? 材料買いに行って来るけど、どうする?」

「あ? なんだ? 出かけるのか? じゃあ、俺も出る。一人で待っててもつまんないしな。ついでに、お菓子買お」



 私は勇喜を連れて街に出た。



「わざわざ街まで行くのか? スーパーでいいじゃん?」

「いいの。美味しいチョコレートを作るんだから」


 街の専門店や雑貨屋さんには、バレンタインの手作り用のチョコレートが売っている。

 味も香りも高級なチョコ。その分値段は高いけど。


 でも、せっかく作るんだから美味しいものが作りたい。

 哲を驚かせてやるんだ。

「私にだって、これくらいは出来るんだぞ」

「は?」

「ううん、なんでもない・・・」


 
 街は、家からバスで20分。



 いつもよりカップルが多い気がした。

 みんな楽しそうだなぁ。


「葵! 葵! あの店入ろうぜ!?」


 勇喜が指を指したのは、美味しそうなケーキが並んだカフェ。

「うわ~美味しそう~って、チョコレートの材料を買いにきたの。ケーキは後で」

「え~~」

 私だって食べたいよ。

 でも、本番は明日なんだから急がないと。


 不満そうにする勇喜を強引にひっぱって、専門店でチョコレートを少し多めに買った。

「これでよしっと・・・・・・じゃあ、さっきのカフェにいこっか?」

「おおお、やった。行こうぜ、行こうぜ」

 ここ最近、ずっとチョコレートばかり試食させてたから、そのお詫びも兼ねて奢ってあげよう。



 私も気分転換にお茶くらいしたいしね。



 どんどん先を歩いていってしまう勇喜を見失わないように、なるべく早足で歩いた。


 けど、店の前に着いたところで、勇喜は急に「行かない」と言い出した。

「なんで? 遠慮しなくていいよ、奢ってあげるし。入ろ?」

「いや、やっぱいい。別の店にする。だから、帰るぞ」


 どうしたんだろう? あんなに入りたがってたのに・・・。


 不思議に思って店の中を覗くと・・・・・・。

「あ、馬鹿っ」







「・・・哲?」






 哲がいた。

 あの時と同じ、茶色い髪の女の子と一緒に座ってる。


 気のせいじゃなかったんだ。やっぱり、デートしてたんだ。


 それなのに、私に隠して・・・。


「おいっ・・・・・・。 葵っ・・・」




 私は踵を返してバス停に向かった。

 声をかけようなんて思いもしなかった。

 その場から、少しでも早く離れたかった。




「なんでっ・・・・・・・・・」


 何で黙ってるんだろう。

 彼女が出来たなら、そう言って紹介してくれればいいのにっ。





 家についた私は、荷物をリビングへ置くと部屋に閉じこもった。


 一緒にいた女の子は、髪は茶色で目が蒼かった。

 背は私よりも低くて、線が細そうだったな。年下かな。

 あの子が哲のタイプ・・・・・・?





 チョコレートは、もうどうでも良くなった。



 わざわざ、私が手作りすることないよね。彼女がいるんだから・・・。

 彼女に作ってもらえばいいじゃん。








 結局、私はそのまま眠って、次の日の本番を迎えた。






<つづく>



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