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byルピナス
*次回第6話は、6/15up予定です

ビターバレンタイン 3話 [ビターバレンタイン 完結]




 危なかった。もう少しでバレるところだった。



「あはは。良いんじゃないですか? ばれちゃっても」

 面白そうに笑うのは、茶色い髪に蒼い瞳の蒼華(そうか)ちゃん。

 高校生で、勇喜の友達だ。

「いやいや、出来れば内緒にしておきたいんだ。その方が驚きが数倍だろうからね」

「確かにそうですけどぉ・・・・・・彼女さん、怪しんだりしてませんか?」

「か、彼女じゃないよっ、葵は。幼馴染なんだ、うん」

「あはは」

 お鍋で生クリームを温めている蒼華ちゃんが、また笑った。





 何か変な事言ったかな?


「そうなんですね。仲がいいんですね・・・・・・あ、哲さん、湧いたのでボウルに入れますよ」

「は、はいっ」

 ボウルに生クリームを注ぐと、チョコレートはあっという間に溶けた。

 蒼華ちゃんは、すばやくチョコレートをかき混ぜている。


 へぇ、これがトリュフチョコになるのかぁ。

 僕は、関心しながら作業を見学していた。

「これがガナッシュといいます。後は、少し冷やしてから小分けにします。15分くらいでしょうか?」

「・・・なるほど。じゃあ、少し時間が空くのかな? 蒼華ちゃん座って休憩してて、僕が片付けるから」

 丁寧に蒼華ちゃんが説明してくれるのは、トリュフチョコレートの作り方。

 バレンタイン用に作りたくて、彼女に手ほどきしてもらっているんだ。

 この間の休日は、材料の買出しに付き合ってもらったのを見つかってしまったらしい。
 



 勇喜に突っ込まれた時はどうしようかと思った。

 なんとか誤魔化せたけど。


 当日までは、ちゃんと隠し通さないとな。






「おーーーい!! てーーつーー! そーーかーー!」

 思いっきり聞き覚えのある声が、玄関の外で響き渡った。


「来た。勇喜だ」

「あ、私が出ますね」


 僕の代わりに蒼華ちゃんが玄関へ向かってくれた。


「ちわーーっす! お邪魔しまーすっ。チョコレートは出来たかぁ?」

「まだだよ、ゆっくん」

「ちぇー、なんだぁ」

 二人の会話がキッチンまで聞こえる。

 小さな1ルームだから、聞こえてきてあたり前なんだけど。




 ゆっくんて呼ばれてるんだなぁ。



「いらっしゃい、勇喜。そこに座って」

 入ってきた勇喜をリビングへと案内する。

 勇気を呼んだのは試食の為――っていうのは建前で。

 本音は、蒼華ちゃんと二人きりにならない為だった。

 女の子が男の人と部屋で二人きりになるなんて、危ないし。僕はそんなことはしないけど。

 でも、これは、男としてのマナーだと思ったから勇喜を呼びつけた。

「今、ちょうど休憩してたところだったんだ。何か飲む?」

「ううん。いらない、持ってきたから」


 ドサっとテーブルの上に置かれたのは、お茶が入った2リットルのペットボトル。

「じゃあ、コップ出すよ」

 僕はキッチンへと戻った。





 じつは、勇喜には聞きたい事があった。

 電話した時に聞いておけば良かったのに、何となく聞きそびれてしまって。


 そのまま、聞けないままだった。

 でも、うまく切り出せない。どうしようか・・・・・・。




 コップを持って二人の所へ戻ると、勇喜と蒼華ちゃんが何かもめていた。

「ムリだよ、ゆっくん。そんなの出来ないよぉ、だから、フォンデュで我慢して」

「ヤダ。俺はチョコファウンテンがやりたいっ」



 な、なんだろう? 会話の意味が良く分からない。

 でも、とりあえず、勇喜が我が儘言ってるって事だけはわかる。

「勇喜、蒼華ちゃんが困ってるじゃないか。ムリ言うなよ」


 勇喜は、プイっと横を向いてしまった。拗ねたかな。

 ますます聞きづらくなったなぁ。

「ゆっくん・・・」




 その後、蒼華ちゃんが作ったチョコレート皆で試食して、僕のチョコレートレッスンは終わった。

 食べたチョコがかなり美味しかったらしくて、勇喜の機嫌は治ったみたいだった。

 その勢いで、蒼華ちゃんを家まで送っていった。



 結局、聞けなかった・・・・・・。




 葵は、誰の為にチョコレートを作っているんだろう。





<つづく>
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